猫伝染性腹膜炎(FIP)治療

1.猫伝染性腹膜炎(FIP)とは

猫伝染性腹膜炎という病気のアルファベットの略称で、FIPウイルスによって引き起こされる感染症です。このウイルスは、もともとは猫コロナウイルスという比較的多くの猫がかかっているウイルスが変異して強毒化し、発生します。強毒化する原因は、ストレスと言われていますが明確にはわかっていません。
多くの場合は、3歳以下の若い猫に起こり、また、多頭飼いの環境だと発生率が高いとされています。

2.猫伝染性腹膜炎(FIP)の症状について

FIPは、2つのタイプがあります。一つが滲出型(ウェットタイプ)で、もう一つが非滲出型(ドライタイプ)です。

①滲出型(ウェットタイプ)の症状

  • 腹部が膨らむ(腹水貯留)
  • 呼吸が苦しくなる(胸水貯留)
  • 食欲・元気がなくなる
  • 発熱
  • 皮膚や白目が黄色くなる(黄疸)
  • 下痢や嘔吐

など

②非滲出型(ドライタイプ)の症状

  • 神経の異常(異常な行動や発作など)
  • 眼の異常(目が見えない、白目の充血など)
  • 食欲・元気がない
  • 発熱
  • 下痢や嘔吐

などがあります。この病気は、発症すると極めて死亡率が高いのが特徴の病気です。

3.猫伝染性腹膜炎(FIP)の診断について

FIPの診断は、上記のような症状が現れた子に対して、血液検査、レントゲン検査、超音波検査などを行い疑いを強めます。しかし、院内でFIPと確定診断をつけることは困難で、最終的な診断には外の検査センターにお腹や胸の水や出来物の一部を送って確定診断となります。
FIPの診断がつく最も多いパターンは、調子の崩れた子猫でお腹に水があるのが見つかり、その液体を抜いた後、外の検査センターに出して判明するパターンです。(ウェットタイプ)。しかし、外の検査センターに出す前に、取れた液体がドロッとした黄金色の粘稠性のある特徴的な液体だとかなり疑いを強めます。
しかし、その他のパターンとして超音波検査でお腹に出来物が見つかってそれを調べてわかる場合もあります(ドライタイプ)。その他にも目や神経に腫瘤や異常ができる場合もあるので、必要な場合CTやMRI検査などより詳しい画像検査をお勧めます。

4.猫伝染性腹膜炎(FIP)の治療について

この病気に対していくつかの治療法はありましたが、多くが治療反応に乏しかったのが現実です。ですが、この恐ろしい病気に関する治療がここ数年大きく変化してきています。そのきっかけがムティアンの登場です。これは、アメリカで開発されたGS-441524という抗ウイルス薬が他国で違法にムティアンという名前で販売しだしたものと言われています。これは確かにこの致死的な病気に対して効果を示し、多くの猫がこの治療によって治療され始めたのがここ数年の話です。
このムティアンというものは、確かに効果が見られましたが異常に高価であり、一般的なルートで作られていないもののためその成分の保証もなく、流通ルートも不安定であり、特許侵害のため多くの倫理的な問題点があげられてきました。

しかし、現在イギリス、オーストラリアにあるBOVA社から抗ウイルス薬「レムデシビル」と「GS441524」が正規に認可、発売されました。当院ではこの薬を使用し、国際猫医学会によって考案された治療方法を用いてFIP治療を行っていきます。

「レムデシビル」と「GS441524」

※他院にすでに受診されており、当院での治療を希望される場合かかりつけ医の紹介状と検査データをご持参ください。薬のみの処方はできません。
※FIPと他院で診断されている場合でも、必要と判断される場合当院でも検査、診断させていただくことがございます。

5.当院の猫伝染性腹膜炎(FIP)治療費用

費用については、猫伝染性腹膜炎のタイプやその子の症状の重篤度などによって異なります。また、海外輸入薬のため輸入コストにも左右されます。費用感の例としては、下記のものとなります。詳細については、ご来院をお願い致します。

3㎏の猫でウェットタイプ、状態として内服薬(GS441524)による治療が可能な場合

診察、検査諸費用:50000円~
GS441524薬代(84日投与):450000円~


3㎏の猫でウェットタイプ、状態が悪く入院治療による注射薬により開始し、状態改善後内服薬投与に移行できた場合

診察、検査諸費用:50000円~
入院費:50000円~
レムデシビル薬代(7日間投与)100000円~
GS441524薬代(77日投与):400000円~

※薬の量には限りがあります。体重や病気の状態などによっては治療ができない可能性があります。

6.当院における猫伝染性腹膜炎の治療例

メインクーン 治療開始時3ケ月齢 体重920g

  • 呼吸が荒いことを主訴に他院を受診。胸水貯留確認。検査によって猫伝性腹膜炎と診断。
  • GSによる治療を希望のため当院転院。来院時呼吸が荒く、発熱、貧血などの症状がみられた。
  • GSによる内服治療を開始し、2日後には発熱は改善、5日後には食欲改善がみられた。
  • 治療期間中に胸腔内にFIPに関連した嚢胞形成が見られ、その抜去が必要となったが84日間の内服治療にてFIPは寛解したとみられる。

【現在】

体重は2.8㎏で元気な状態で暮らしています。

【来院時】

【来院時】

【現在】

【現在】

ペルシャ 治療開始時4か月齢 体重1500g

  • 呼吸が荒いことを主訴に他院を受診。胸水貯留確認。検査によって猫伝染性腹膜炎と診断
  • 来院時呼吸があらく、胸水抜去。レムデシビルの注射による治療を開始。状態回復後GSによる内服へ変更。
  • 治療開始後は胸水抜去なく、良好な状態を維持。
  • 84日間のプロトコル後再発なく、去勢手術実施。

【現在】

猫伝染性腹膜炎の治療例

猫伝染性腹膜炎の治療例